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差別事件

 「部落差別などもうないのでは?」という声がありますが、現在も差別事件は頻発しています。
 2016年12月に「部落差別の解消の推進に関する法律」(部落差別解消推進法)が施行されました。この法律は憲政史上はじめて「部落差別」という用語が使われた法律であり、国の「部落差別は許されないものである」との認識が示された法律です。
 しかし、この法律は理念法であり、人権侵害に対する救済や差別行為に対する規制もありません。本法の成立をゴールとするのではなく、引き続き、「人権侵害救済法」や「差別禁止法」などの包括的な法制度の確立を求めて、今後も粘り強く運動を展開していきます。差別を支えるすべての障壁を打ち壊していくことこそ、部落解放運動の使命です。目の前に立ち現れた差別事件を、一つひとつしっかりと取り上げて闘っています。
 現在、私たちが取り組んでいる主な差別事件は、以下の通りです。

■インターネット差別書き込み事件

全国部落調査

 現在、インターネット上では「落地名総鑑」が公開され、被差別部落に対するデマや偏見、差別的情報が圧倒的な量で発信され、氾濫しています。そして「無知・無理解」な人ほど、そうした偏見を内面化し、差別的情報を拡散する傾向にあります。 2016年4月には2016年12月には鳥取ループ・示現舎による「全国部落調査」復刻版発刊事件が起こりました。
 この『全国部落調査』という書籍は、1936年3月に財団法人中央融和事業協会が作成したもので、全国5,360以上の被差別部落の地名、世帯数、人口、職業、生活程度などがリスト化されており、今回発刊するとした復刻版では、この1936年版『全国部落調査』に書かれた昭和初期の地名に加え、現在の地名も掲載されていました。この書籍が発行・発売されるという情報がインターネット上に掲載され、拡散しました。 ネット販売大手の「Amazon」ではこの書籍の予約受付もおこなわれましたが、部落解放同盟や共闘団体、個人等が抗議の声をAmazonに集中した結果、Amazonは予約受付を中止しました。
 また鳥取ループ・示現舎は、ウェブサイト上で『同和地区wiki』、「部落解放同盟関係人物一覧」という題名で、部落解放同盟役員の名前、住所、電話番号などを公開しました。
 そこで「部落解放同盟関係人物一覧」に名前などを掲載された被差別部落出身者248人と部落解放同盟は、『全国部落調査』の出版差し止め、ウェブサイトの削除、出版及びウェブサイト公開によって、差別を受けない権利、プライバシー権及び名誉権が侵害されたことによる損害賠償請求の民事訴訟を東京地方裁判所に提訴しています。
 それだけにとどまらず、鳥取ループ・示現舎は自分たちのブログ内で「部落探訪」というページを作るとともに、「神奈川県人権啓発センター」という名前でYouTubeチャンネルを開設。全国各地の被差別部落に潜入し、所在地や特徴が一目でわかるような写真や動を大量に掲載しています。その数は2020年8月現在で18都府県180か所以上にもおよびます。
  こうしたインターネットによる差別書き込みの早期発見と抑止のための「モニタリング事業」を導入する自治体が増えてきており、現在、兵庫県をはじめ県内22市町で差別的な書き込みの監視、削除要請がおこなわれています。この事業を県内すべての市町で導入されるように働きかけていきます。


■差別投書事件

差別投書

 2015年5月、兵庫県連事務所に「こら部落民お前ら牛殺しの仲間やろう。えったえったこらくそ部落民」から始まり、「一般人からの嫌われ者」「今でも部落差別はあるんや。此の部落差別は何十年立とうが何百年立とうが変わらんのや。だから部落差別は当然なんや」という極めて悪質な内容の差別投書が送られてきました。
 その後、姫路市T地区の皮革業者7社にも送りつけられたことが発覚しました。その文書には2枚目があり、「皮革製品って部落の人間しか出来ん仕事やないか。川で皮についてる牛の毛をはぎ取り皮を洗いなめす。普通の人間の手の出せない仕事しか部落の人間は務まらん」「皮=部落。皮をなめすさぞかし臭いだろうし匂いが体に染みついているだろう」と、皮革業への蔑視に満ちた内容でした。
 この差別文書は、大阪では4月から府連事務所や支部事務所などにも投函されていたことがわかりました。差別投書は皮革業者や精肉店、葬儀社、被差別部落の住宅に集中しており、大阪、兵庫、京都の広範囲で1800枚以上ばら撒かれていました。
 その後、犯人が特定されましたが、「侮辱罪」で科料9900円という罪にしか問うことができませんでした。
 2016年に部落差別解消推進法が成立しましたが、人権侵害救済法や差別禁止法の制定が求められています。


     

■興信所と行政書士の結託による戸籍謄本等の不正取得事件

 2004年12月に、加古川市の住民から「興信所と行政書士が結託して、大量の戸籍謄本や住民票の控えが不正に取得されている。それを部落地名総鑑と照合して身元調査しているようだ」との告発がありました。司法書士や行政書士等は、職務上請求書という用紙を行政に提出することによって、戸籍謄本等を簡単に入手することができます。これは、このような職に携わる人が不正を行なわない、正当な職務にしか使用しないという前提に立って与えられた特別な権限です。それを悪用した事件が発生したのです。差別を商いにする行為であり、許すことはできません。
 私たちは、兵庫県行政や兵庫県行政書士会に対して事実確認作業を要請しました。また、独自に、興信所に対する確認作業を行なう中で、真相が明らかになってきました。神戸・宝塚・大阪の行政書士が不正に請求した件数は、4000件を超しています。
 日本行政書士会連合会は、従来の職務上請求書の点検作業が不十分であったとして、チェック体制を強化し、2005年8月からは、新しい様式に統一した用紙でないと申請できないこととしました。今回の不正に関与した神戸の行政書士は4月に廃業し、過料処分を受けました。宝塚の行政書士は、2005年6月に県から「業務禁止」の処分を受けたにもかかわらず、7月にこの行政書士が職印を押した職務上請求書が兵庫・大阪・京都で不正に使用されました。これは、行政書士法違反に当たるだけでなく、詐欺罪・私文書偽造罪に当たるとして、県は関係者7名を刑事告訴しました。
 このように、実態が次々と明らかになり、不正を行なったものに対して厳正な対処が講じられてきたこと、不正を防止するためのシステムが構築されてきたことは、大きな成果です。
 また、この事件を契機に、地方自治体で「登録型本人通知制度」を導入する動きが急速に広まり、現在では県内29市11町で導入されています。この制度は戸籍謄本等不正取得の防止に極めて有効ですが、現在もなお不正取得事件が年に数件報告されています。
 不正に取得した戸籍謄本等を興信所が何に使ったのか、あるいは部落地名総鑑の使用実態はどうなっているのか、まだまだ解明しなければならないことがあります。
 今後の課題として、①興信所による身元調査の実態解明、②部落地名総鑑に関わる真相解明、③不正に戸籍謄本等を取得された被害者の救済、④差別身元調査に対する法的規制、⑤職務上請求書の使用を許された8業種に対する人権啓発、⑥戸籍等を扱う行政における人権研修と不正防止策の徹底、⑦戸籍制度の撤廃に向けた運動、等があります。


■結婚差別

 2018年に実施された「兵庫県人権意識調査」においても、「たとえば、あなたが結婚しようとする相手が、同和地区の人であるとわかった場合」の行動についての質問では、「家族や親戚の反対があれば結婚しない」(8.7%)「絶対に結婚しない」(5.2%)と、15%近くの人が否定的な回答をしています。
 また、「たとえば、あなたのお子さんの結婚しようとする相手が、同和地区の人であるとわかった場合」の行動についての質問をみると、「子どもの意思を尊重する」とした人が48.6%で最も高く、約4割の人が賛成している一方で、「親として反対するが、子どもの意志が強ければしかたない」(17.7%)や「家族や親戚の反対があれば結婚を認めない」(1.6%)、「絶対に認めない」(3.9%)など、2割が否定的な回答をしており、「わからない」という回答も2割います。 交際相手が被差別部落出身者であれば、結婚を懸念する傾向がいまだ根強く残っている社会状況があります。
 結婚差別は、被差別部落への偏見や忌避意識が招く事象です。その意識は、社会構造に部落差別が脈々と生き続けている証であり、その意識がまたも部落差別を温存助長していきます。

【2018年に県連にあった相談】
  2年以上交際した相手と結婚の話が具体的になった途端に関係がギクシャクし始めた。 何度目かの話し合いで「君が部落出身だから結婚はできない」と言われた。 相手の家は代々結婚に際し、相手方の身元調査をおこなっており、相談者の祖父が部落出身であることを確認したという。
 「自分の家のために別れてほしい」「年老いた祖父や祖母を苦しめてあの世に行かせたくない」などの発言をされたが、傷ついているのは自分だ。 私の母は「謝罪すれば許す」と言っているが、私は許す気持ちにはなれない。 法務局の人権相談にも行ったが、今後どうしたら良いか相談に乗ってほしい。

【参考】齋藤直子著「結婚差別の社会学」(2017年/勁草書房)http://www.keisoshobo.co.jp/book/b283182.html


■差別落書き事件

 差別落書きも県内で数多く発見されています。その中には特定の個人や団体を誹謗中傷する物も報告されています。「たかが落書き…」と考える人も多いだろうが、差別落書きは見る物を不快にさせるだけでなく、身体への危険を感じさせ、恐怖を与えます。ナチス時代のドイツで「ユダヤ人を皆殺しにしろ!」などの扇動的な落書きが増加したという歴史を思い出すとき、近年、大きな社会問題となったヘイトスピーチと同様に、差別落書きが社会への不満やうっ憤を晴らすための行為であり、決して許されるものではないことをあらためて考えさせられます。


■『兵庫におけるあいつぐ差別事件』

ひょうごにおけるあいつぐ差別事件

 今日、インターネットを利用した差別書き込み、身元調査を目的とした戸籍謄本等不正取得事件や土地差別調査事件といった極めて悪質な差別事件が起きています。長引く経済不況や政治不信、そして格差社会等混沌とした社会状況が国民の人権意識を希薄化させ、差別事件を続発させていると言えるのではないでしょうか?
 私たちは県内で起きた差別事件を「兵庫におけるあいつぐ差別事件」という冊子にまとめて紹介しています。
 今後も県内各地域での人権啓発活動や学習会の教材として本書を活用していただきたいと考えています。お問い合わせは県連事務局まで。