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2020年

■ネット差別へのとりくみを強化しよう(12月5日号)

兵庫県との意見交換
 県連は11月6日、2020年度の対県要望をおこなった。
 今年はCOVID-19に関連して新たな差別事象も生じており、例年以上に多くの課題を提起したが、とりわけネット上の差別に対して、運動体と行政がそれぞれの立ち位置からどう取り組んでいくのかについて、時間をかけて意見交換をおこなった。

ネット上の部落差別
 今年6月、ネット掲示板「5ちゃんねる」に「みんなで部落を殺そう」というスレッドが立てられ、「あなたが住んでいる町内に部落民はいませんか? よく確認してみましょう」と、鳥取ループがばらまいた「同和地区と関連する人名一覧」のリンクが貼られた。そこには「穢いからみんなで殺そう」「人間のフリしてるヨツ猿は保健所のガス室に送り込んで皆殺し」など、個人を特定し、殺害を煽動するコメントがいくつもぶら下がった。これらの悪質な書き込みは兵庫県連を含む全国の都府県連からの違反通報によって早急に削除されたが、ネット上には同様の書き込みがいまだに溢れている。
 また鳥取ループ・示現舎らによる「部落探訪」を模倣するような確信犯が出現してきている。今年度に入って県連が把握しただけでも5つの動画チャンネルが存在し、神戸市や阪神間、丹波篠山市の被差別部落が撮影され、ネット上に晒された。

より実効的な工夫が必要
 2018年7月から兵庫県は「インターネット・モニタリング事業」を開始した。この事業の一環として年2回、県内各市町のモニタリング担当者・人権担当者を対象とした研修をおこなうなど、制度の周知や情報交換に最適な仕組みになっているが、差別書き込みを物理的に減らしていくためには、より実効的な工夫が必要だ。法務省が2018年12月に出した依命通知「インターネット上の同和地区に関する識別情報の摘示事案の立件及び処理について」も、それが差別投稿への抑止や解決に十分な効力を発しているのか、削除につながったケースの数も開示されず、まったくわからない状況にある。

ネットを活用した啓発を
 昨年、全国1万人抽出で実施された「部落差別解消推進法」第6条に基づく実態調査の結果が、今年6月に公表されたが、「ネット上で部落問題の啓発情報を見たことがない」という回答は8割を超える。ネットを主な受信ツールとし、「部落」についての差別情報を日常的にキャッチしている若い世代に対して人権教育・啓発情報を届けるためには、やはりネットの活用が必要不可欠である。
 私たちはこれまで、当該自治体を通じて法務局への削除要請をおこなってきた。もちろんこのとりくみも重要ではあるが、同盟員一人ひとりが出来ることもたくさんある。県連だけでなく、県内各ブロックや支部でもネット上の部落差別を監視し、削除を依頼するモニタリングにとりくもう!


■自民党・杉田水脈議員の辞職を求める(11月5日号)

 いったい何度目の差別発言だろうか―。自民党衆議院議員の杉田水脈である。
 9月25日の自民党の内閣合同会議で、内閣府が性暴力被害者のための「ワンストップ支援センター」の増設方針を説明した際、杉田は、相談事業は民間委託ではなく警察が積極的に関与するべきと主張し、「女性はいくらでも嘘をつけますから」と、さも被害者が虚偽申告をするかのような発言をおこなった。
 この発言が問題になると、当初は「そんなことは言っていない」と否定したが、下村政調会長との会談後に前言撤回し、発言を認めた。それも会見ではなくブログ上だというから呆れる他ない。
 内閣府調査(2017年)によると、「無理やりに性交等された被害経験」があるのは約 20 人に1人(女性に限れば約 13 人に1人)。そのうち警察に連絡・相談したのはわずか3・7%(女性は2・8%)である。声を上げられない被害者が圧倒的に多く、被害を訴えても誹謗中傷を受けることが少なくない。杉田の発言は、セカンドレイプであり、被害者にいっそう沈黙を強いるものに他ならない。
 杉田はこれまでも、「(性的マイノリティは)生産性がない」とした『新潮45』(2018年8月号)への差別寄稿や、性暴力被害に遭ったジャーナリスト伊藤詩織さんに対して「女として落ち度がある」などの発言をしてきた。伊藤さんは杉田のSNSでの中傷に対し裁判を起こし、「法律を変える力のある国会議員からというものだったことに、衝撃、恐怖さえ感じている」と訴えている。
 部落差別発言もおこなっている。小川榮太郎との対談本『民主主義の敵』(2018年、青林堂)で、「同和差別なんて、もう終わっているでしょう?」「同和地区出身者が差別されたというところを見たことがない」「利権絡みによる逆差別というのはたくさん見ました」と、部落解放運動を愚弄し、部落解放同盟が利権団体であるかのように印象づける悪質な差別発言をしており、許すことはできない。
 なぜこんなデタラメな人物が議員であり続けることができているのか。
 その背景に安倍前首相の強烈な贔屓があったことは間違いないだろう。杉田は2017年の衆院選挙で比例中国ブロック単独候補の最上位で擁立されたが、杉田の度重なるとんでもない発言に拍手喝采を送るいわゆる「ネトウヨ」層の支持を取り込むために、安倍は杉田を重用してきたのだ。
 菅首相も官房長官時代、杉田の差別発言について見解を問われた際、「政府の立場でコメントすることは控えたい」とまったく問題視してこなかった。
 今回の問題についても、杉田の議員辞職を求めて全国から集まった13万6000筆超の署名を自民党本部は受け取らなかった。「議員の進退は本人が決めることであり、党としては議員辞職を求める署名は受け取れない」とするが、杉田は比例で当選した議員である。党としての責任は決して免れるものではない。
 何度でも杉田に強く議員辞職を求めるとともに、このような差別議員を誕生させた自民党の責任を徹底的に追及しよう!


■対立と分断を生む「アベ政治」の継承を許すな!(10月5日号)

 9月14日の自民党総裁選挙は、大方の予想どおり、菅義偉氏の圧勝で終わった。「昭和」に戻ったかのような数の論理と派閥政治で選ばれた菅氏は「安倍政治の継承」を掲げている。
 朝日新聞の世論調査では、第2次安倍政権を71%が「評価する」と答えたというから驚くばかりだ。
 2012年に始まった第2次安倍政権の下では、特定秘密保護法、安保関連法制、共謀罪(テロ等準備罪)など、多くの人の反対の声を強引に封じ込め、憲法違反の法律が作られた。また、森友・加計学園問題や桜を見る会に象徴される政治の「私物化」、それらの不正を隠すための虚偽答弁、文書の隠ぺいや改ざん。相次ぐ閣僚の逮捕。米軍基地負担の増大を拒む沖縄の声は踏みにじられ、福島の記憶はかき消され続けている…。
 高校授業料無償化は民主党政権下の2010年に関連法が施行されたが、安倍政権は2013年、朝鮮学校を対象から外すために文科省令の規定を削除。「朝鮮人を殺せ」と差別を扇動するヘイトスピーチが問題になったのは、この年だ。徴用工問題などで対韓強硬路線を主導し「嫌韓」を煽る安倍政権下で、朝鮮半島にルーツのある人々に対する差別的な空気がまん延した。
 「アベ政治」はこの国の民主主義を破壊し、差別を拡大し続けた。安倍晋三首相は事あるごとに「悪夢の民主党政権」と口にしたが、この「アベ政治」こそ悪夢ではなかったか。

◇◇◇

 新型コロナウイルス感染症対策では、ほとんど必要とされない「アベノマスク」を約260億円かけて全戸配布、「ステイホーム」と自宅で犬をなでる動画を発信。あるニュース番組でジャーナリストの青木理氏が「(安倍政権は)憲法に緊急事態条項が必要だと言っていたわけですよね。それだったら緊急事態、危機管理ってのは強いのかなと思ってたら、コロナっていう本当の危機の時に後手後手で、ピント外れで…」と語っていたが、正しい評価であろう。
 災害等の対応は、現行法やその改正によって十分に可能だ。しかし、コロナ禍の最中に通常国会を閉会し、憲法に基づいた臨時国会の開催要求も無視。全国の知事や医師会が「特措法改正を国会で議論してほしい」と訴えても「事態が収束したあとに検討する」と言い放ち「政治的空白」を作り続けた。無責任な対応は、辞めたからと言って免責されるものではないはずだ。
 「実直な人が、悪を見のがすのを寛容と思い誤って、いい加減な態度をつづけてゆくならば、今日のような混沌状態は永久につづくだろう」と言ったのは、中国の思想家魯迅だが、安倍政権の7年8か月で破壊されてきたものを私たちの手で再生していくためにも、私たち一人ひとりがもう一度政治ときちんと向き合う必要があるだろう。
 格差拡大、対立と分断を生み、差別をまん延させてきた「アベ政治」の継承は絶対に許してはならない。


■「命の選別」に歯止めを(9月5日号)

 7月、京都市内で医師2人が難病患者を死亡させた事件が発覚した。難病である筋萎縮性側索硬化症(ALS)を発症した女性とSNSを通じて知り合い、依頼を受け金銭を受け取り、昨年11月に致死量の薬物を投与した事件である。
 この事件を受け、れいわ新選組の舩後靖彦参議院議員は「『死ぬ権利』よりも『生きる権利』を守る社会にしていくことが、何よりも大切です。どんなに障害が重くても、重篤な病でも、自らの人生を生きたいと思える社会をつくることが、ALSの国会議員としての私の使命と確信しています」とコメントを出した。これについて日本維新の会の馬場伸幸幹事長が「(安楽死や尊厳死の)議論の旗振り役になるべき方が議論を封じている。残念だ」と批判。大阪市長である松井一郎代表はこの発言に苦言を呈しながらも、「今こそ議論をしていくべき」と「尊厳死」の法整備が必要だという自論を展開した。インターネット上には「もし自分だったら死にたい」「だから安楽死を議論していくべき」といった投稿が散見される。
 これに対して立岩真也立命館大教授は「困難な状況で生きている人に対して、『わたしはあなたの状態が死ぬほどイヤです』というのは、相当強い否定」「相手の属性・状態を、命という非常に重いものと比較して、それに劣ると指摘するのは犯罪的」であり「ヘイトクライムと言っていい」と指摘する(8月23日、京都新聞)。
 議論すべきは「死にたい」と思うような状況を社会がどう対応し改善していくのか、ではないのか。
 れいわ新選組の党員で昨夏の参院選に立候補した大西つねきが7月3日、自身の動画チャンネルで「命、選別しないと駄目だと思いますよ」「その選択が政治なんですよ」と発言したことも問題となった。同党は7月16日に開催した総会で除籍を決定したが、優生思想に抗う政策を打ち出し、重度障害者2人を国会に送り出した政党として、看過できない事態である。
 同党の木村英子参議院議員は「私が幼いころから抱いていた、『殺されるかもしれない』という避けがたい恐怖を蘇らせました。大西氏の発言は、自分の命を人に預けなければ生きていけない人たちにとって、恐怖を与える発言であり、高齢者だけではなく障害者も含めた弱者全体を傷つけた暴言であると思います」とコメントしている。
 2016年に相模原市で障害者19人を殺害した植松聖死刑囚は裁判で「意思疎通のできない重度障害者は安楽死させるべきだ」と一貫して主張。「障害者は他人の時間とお金を奪っている」からという。
 新型コロナウイルス感染症の拡大のなかで、人工呼吸器が不足した場合は、救命の可能性が高い患者や若い世代を優先するべきだという意見もある。
 このような「命を選別する」風潮に歯止めをかけなければ、「誰もが生きやすい社会」は実現しない。弱い立場の人を攻撃し切り捨てることがおこなわれてしまっている社会で、私たちが見つめなおすべきものは、人の尊厳であり、誰の命も平等であるということだ。


■相談活動をはじめとする部落解放運動のとりくみを強化しよう(8月5日号)

 新型コロナウイルス感染症の感染拡大による緊急事態宣言は解除された。マスク着用や手指消毒などの対策をとることはすっかり日常と化したが、感染者数や医療体制に関する報道が続く中、東京での「200人以上の新規感染者が〇日連続」という状況など、事態は悪化しているようにも思われる。 兵庫県においても感染者の微増が続き、7月26日には49人の新規感染者が確認された。油断できない状況であることに加え、本格的な夏を迎え、マスク着用による熱中症の危険性などの懸案項目も増えている。引き続きできる限りの対策を講じたうえで生活しなければならない。  感染症の影響によって、部落解放同盟は全国集会をはじめ各都府県連での集会なども延期や中止の判断をしてきた。人数制限などの対策をとったうえで実施されている会議や集会もあるが、人を集め、人と相対することで進んできた部落解放運動のとりくみは、この間の感染症対策によって制限されつつある。 そんな中、部落解放同盟中央本部は6月に「新型コロナウイルス問題対策本部」を設置した。被差別部落における感染症の影響やそれに関する現状を把握し、国への政策要望へつなげていくためである。対策本部では具体的な要望内容を吸い上げるための調査がおこなわれ、これを受けて兵庫県連は県内各支部へアンケート調査を実施した。 緊急事態宣言が発令されていた期間は隣保館が休館していた地区もあり、当然、子どもや高齢者向けの事業などもおこなわれていなかった。 特別定額給付金の申請書記入時のサポートの他、独自に現金給付やマスクの配布などをおこなったりした支部もあった。 また、部落解放兵庫県企業連合会では事業者対象の持続化給付金などの制度に関する問合せ対応をおこなっているが、アンケート調査では「オンライン申請が難しい」という企業からの相談や問合せを多く受けていた支部があることも分かった。活動が停滞し休止となる支部などが増えている一方で、相談活動を意識的におこなっている支部もあり、支部員や企業連会員にも「困ったことは支部に相談する」という意識がある状況がみてとれた。 感染症による経済的な影響や日常生活の変化などをふまえると、地域の中で生活状況を聞き取ることはますます重要となってくる。同盟員減少が加速する中、活動基盤としての支部や県連のあり方そのものを考えることとあわせ、感染症の影響下でのとりくみやその手法について具体的に考えていかなければならない。 県連の一部の会議ではオンラインツールを導入しているものの、利用可能な環境にある人は限られている。そのような点も考慮し、可能な形で新しい手法を試すことも視野に入れながら、相談活動をはじめとする部落解放運動のとりくみを強化していこう。 ればならない。


■優生思想に向き合う―相模原事件から4年―(7月5日号)

 神奈川県相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」で、障害者19人が殺害され、26人が重軽傷を負った事件から7月26日で4年となる。  今年3月、横浜地裁は事件の犯人に死刑判決を出した。今年1月に始まり、16回の公判を経ての判決だった。弁護団は控訴したが、被告の意向によって取り下げとなり、死刑が確定した。 被告は裁判で「意思疎通のとれない重度障害者は安楽死させるべき」と繰り返し述べたが、動機については語らず、謝罪や反省する様子もなかった。  裁判では、被告が「話せない」障害者を選んで殺害し ていった生々しい様子が明らかになった。 殺人事件では通常、被害者は実名で発表されるが、この事件では当初から、匿名で扱われた。神奈川県警はその理由を「知的障害者の支援施設」で、「遺族のプライバシーの保護等の必要性が高い。遺族からも特段の配慮をしてほしいとの強い要望があった」と説明。裁判でも、ほとんどの被害者が「甲」「乙」などの匿名で審理された。障害者に対する差別や偏見が社会にあることの表れであるとも言えるが、それが、亡くなった被害者一人ひとりの尊厳を守る姿勢になるのだろうか。障害者の人生をなかったことのようにするものであり、「二重に殺されたと同じ」と言う関係者も少なくない。 初公判直前には、19歳だった女性被害者の遺族が手記と写真を公表した。名前が「美帆」さんであること、一生懸命生きていたことを伝え、「量刑を決めるだけでなく社会全体でもこのような悲しい事件が起こらない世の中にするにはどうしたらいいか議論して考えていただきたい」「障害者やその家族が不安なく落ち着いて生活できる国になってほしい」と願っている。 事件当初、「殺すのはよくないけど、優生思想は合理的」などの意見がネット上で見られたように、被告の考えを部分的にでも肯定する人は一定いる。そしてその土壌はこの社会によって作られている。健常者中心の、生産効率や労働能力で人の価値を判断する今の社会が、障害者の生存を軽視する思想を支えている。 新型コロナウイルス感染症拡大の中で、もし医療崩壊が起きるようなことがあれば、障害者の命が軽視され、「命の選別」が起きるのではないかと危機感を持つ障害者は多い。  事件の裁判は終わったが、その背景や優生思想について社会全体で考えなければ、事件は風化し、障害者はますます軽視される。出生前診断や旧優生保護法下での強制不妊手術の問題等もあわせ、兵庫県連は今後も障害者団体とともに、とりくみを続けていく。 私たちは、私たちの中にある優生思想に向き合い、問い直し続ける必要がある。そして、「障害を理由とする差別の解消を推進し、もって全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現」(障害者差別解消法)をめざしていかなければならない。


■今こそいのちと生活を守る解放運動を(6月5日号)

 新型コロナウイルス感染症の感染拡大によって4月6日、政府の緊急事態宣言が発令された。兵庫県に対しては5月21日に解除されたが、この間の政府の対策はお粗末としか言いようがない。4月6日に閣議決定された1世帯2枚の布マスク配布は、不織布マスクが出回るようになった現在(5月25日)でも25%しか完了せず、経済的に困窮する人を支援する政策も後手に回っていることなど、問題は数えきれない。 一人あたり10万円の現金給付(特別定額給付金)は、ようやく各自治体で申請が始まり、国による中小企業向けの融資制度も展開されているが、休業を「要請」して「補償」しているのは都道府県レベルでの話だ。政府は休業や自粛をお願いはしても、補償はせず、個人給付に関する議論では「一律給付だと『日本人以外の人』も対象になる。まず日本人に給付すべき」という話が自民党内で出るなど、支援にスピードがないどころか、堂々と差別をしている状況だ。困窮する大学生への支援にも、朝鮮大学校などの各種学校は除外し、留学生には成績優秀者という要件をつけるなど、選別をおこない、批判されている。 そして、政府の最重要課題として感染症対策に取り組むべきこのときに、検察庁法改正案などいくつもの問題のある法案を強引に通そうとした(している)政府の姿勢を徹底的に糾さなければならない。 そのような中、新型コロナウイルスに感染した人やその家族、医療従事者などへの偏見・差別が広がっている。三重県では感染者宅に石が投げつけられるなどの嫌がらせがあったことが大きく報道された。未知の病気への恐怖やストレスが差別を生み出していると言える。 さらに経済格差や社会問題は深刻化し、分断が強まる傾向にある。外出自粛や休業要請の中、ネットカフェで長期にわたり寝泊まりしてきた人たちが行き場を失う事態も起こり、虐待やDVの件数も増えている。 この状況の中で部落解放運動ができることは、あらゆる差別とその強まりを許さない姿勢を示し、取り組むことはもちろん、地域の人々とのつながりを絶やさないようにとりくみを継続することである。県内では支部員にマスク配布や現金給付をするなど、可能な範囲で支援に取り組んでいる支部もある。 さらに重要なのは、同盟員の悩みや生活状況などを聞きとることである。感染症拡大による影響などについて、中小企業を多く抱える部落解放兵庫県企業連合会と協力し調査する必要がある。そのうえで県連としてのとりくみを考え、場合によっては効果的な施策を国や市町に求めていかなければならない。 緊急事態宣言は解除されたものの、第2波、第3波の恐れが指摘されている。できる限りの感染防止対策をとりながら、いのちと生活を守る解放運動のあゆみを絶やさないよう、とりくみを続けていこう。


■えん罪57年―東京高裁は狭山事件の再審をおこなえ(5月5日号)

 冤罪57年、確定判決である東京高裁の寺尾不当判決(無期懲役判決)から46年。第3次狭山再審闘争は大きな山場を迎えている。
 2009年に東京高裁の門野裁判長が東京高検に証拠開示を勧告してから、これまでに191点の証拠が開示された。この中には、逮捕当日の石川一雄さんの上申書、取調べ録音テープ、被害者の万年筆のインク瓶、カバン、腕時計、スコップ、取調べにかかわる捜査報告書など、重要な証拠が含まれている。これを受けて弁護団は専門家による新たな科学的鑑定や意見書など、224点の新証拠を東京高裁に提出している。これらによって、寺尾判決の前提は完全に崩れている。
 まず、有罪証拠の一つとされた、死体発見現場近くで発見されたというスコップ。寺尾判決では、石川さんがかつて働いていた養豚場のもので、石川さんが死体を埋めるのに使ったとされている。これについて、弁護団は2018年7月と2019年12月、元京都府科捜研技官の平岡義博・立命館大学教授の鑑定を提出した(平岡第1・第2鑑定)。平岡鑑定人は、狭山現地での観察、地質等に関する調査、文献調査をおこなった上で、事件当時の埼玉県警鑑識課員の鑑定の誤りを指摘し、このスコップが死体を埋めるのに使われたとは言えないことを明らかにした。
 被害者の万年筆についても、弁護団は多くの証拠を提出している。その一つ、2018年8月に提出された下山第2鑑定(下山進・吉備国際大学名誉教授)では、石川さんの家から「自白」にもとづいて発見されたとする万年筆のインクから、被害者が事件当日に使っていたインクに含まれるクロム元素が検出されなかったことを指摘し、この万年筆が被害者のものではないことを示した。
 石川さんを取調べたS巡査が作成した捜査報告書は、石川さんが単独犯行の「自白」を始めた6月23日に作成されたもの。石川さんが「Yちゃん(被害者)はどうなっていたんべい。それを教えてくれればわかるんだ」と尋ねたと報告されている。開示された取調べ録音テープとも内容的に一致しており、石川さんが死体の状況を知らなかったこと、自白が作られたものであることを示している。この報告書と取調べ録音テープは、2審の東京高裁で、捜査官らが検察官と共謀して偽証していることも浮かびあがらせている。
 こうした証拠開示によって発見された新証拠は、確定判決に合理的な疑いを生じさせている。東京高裁は、鑑定人尋問をおこない、再審を開始すべきである。
 毎年、石川さんが不当逮捕された5月23日に合わせ、東京で「狭山事件の再審を求める市民集会」が開催されているが、今年は新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響を踏まえ、中止となった。
 兵庫県で毎年8月に開催している「狭山事件の再審を求める県民の集い」は開催の方向で準備を進めている。同盟員はじめ多くの県民の力を結集して集会を盛り上げよう。そして、世論を大きくし、後藤眞理子裁判長に鑑定人尋問などの事実調べ、再審開始を求めよう!


■鳥取ループ・示現舎を徹底的に糾弾する(4月5日号)

 鳥取ループ・示現舎に対する裁判闘争は4年目に突入した。これまで進行協議がすすめられてきたが、今年はいよいよ証人尋問がはじまる。証人尋問は裁判闘争の成否につながる重要な闘いである。
この裁判は、そもそも「インターネット上に地名を暴露すること」が問題だと主張してきたものだ。これに対し、鳥取ループらは「原告らは被差別部落出身者であることを『自称している』にすぎない」「部落出身者であることを証明できないのであれば、自分たちの行為(部落の所在地情報の拡散)によって被害を受けることはない」「同和対策事業はあやまった歴史認識の上におこなった事業」などの主張を繰り返している。
 あらためて強調しておきたいが、この裁判は「誰が出身者か」や「同和対策事業の是非」を問うものではない。
 われわれが指摘しているのは、「全国部落調査」復刻版やネット上に部落の所在地情報が流されることによって、そこに住んでいる人やそこにルーツをもつ人が「部落出身者」と見なされ、忌避、差別されるという現在の部落差別の実態である。鳥取ループらは、この根本的な問題をすり替え、歪曲している。こうした陰湿で狡猾な主張に引っ張られることなく、「地名の拡散」が差別につながるものであり、鳥取ループらの主張が「差別する側」の論理であることを示すとともに、これまでの差別事件を通じて、地名がどのように扱われ、 差別と排除を生み出したのかを証明しなければならない。
 そして、悪質極まりない「部落探訪」も絶対に許してはならない。
「部落探訪」とは、鳥取ループらが全国各地の被差別部落に潜入し、所在地や特徴が一目でわかるような写真をネット上に大量に掲載したもの。2015年から自身のブログに掲載し、その数は3月30日現在、18都府県178か所にもおよぶ。兵庫県内だけでも8市10地区が撮影されている。裁判開始以降、掲載数を増やし、2019年だけでも52か所をネット上に晒した。
 また、YouTube上に「神奈川県人権啓発センター」名でチャンネルを開設し、「【学術】部落研究」のタイトルで全国 82 地区(番外編5地区を含む)を動画で晒している。これらの悪質な行為を模倣する者も出現しており、深刻な二次被害も起きている。
 裁判は年内に結審、年度内には判決が出される見通しとなった。県連としては兵庫25人の原告を先頭に、共闘団体、宗教団体、企業、行政関係者らとの連携をさらに深め、支援の輪を広げるとともに、兵庫県連独自での裁判闘争も視野に入れて取り組んでいきたい。
 4月26日には、裁判闘争の勝利に向け、決起集会を開催する。県内各ブロック・支部からの積極的な参加を要請する。
 部落差別を助長・拡散する鳥取ループ・示現舎を徹底的に糾弾する闘いをすすめていこう!


■第61回県連大会を成功させよう(3月5日号)

 県連は3月22日、のじぎく会館において第61回県連大会を開催する。
今大会より、県連大会代議員の選出方法、代議員選出基準単位などの変更をおこなった。
 代議員の選出は、これまで支部ごとの選出としていたが、支部・ブロックの活性化のとりくみを強めるためにブロック(市町)単位で選出する方法へ改定した。また、きめ細やかに同盟員の声を反映するために、代議員選出基準を同盟員40人単位に変更した。
 部落解放同盟の基本組織が「支部」であることは言うまでもないが、日常的な組織活動に困難を抱えている支部もあり、地域の運動をどう継続していくのかを考えていかなければならない。今回の変更は、各支部の現状を踏まえて、支部・ブロックの活性化と、支部の合併等を含む組織再編を促すためでもある。
◆ ◆ ◆
 今大会の主要な課題の一つは、差別に対する闘いを強化することである。とりわけ、部落の地名をネット上に暴露し差別を広げ、差別を商いとしてきた鳥取ループ・示現舎との裁判闘争に勝利することである。提訴から三年が過ぎ、秋には証人尋問が予定されている。ともに取り組む人たちとのつながり、支援の輪を広げながら闘いをすすめていくことが重要である。
 二つ目に、ブロック・地域・支部の活性化をすすめ、強固な組織建設をはかることである。
兵庫はその多様な気候と風土から「日本の縮図」と言われているが、部落もまた地域ごとに特色を持っており、それらの特色を活かすとりくみが求められている。地域の活性化にむけ活用できる制度や施策を駆使し、各級役員の世話役活動を強化していくことが必要である。地域に存在する隣保館や教育集会所、公民館等の施設を活用し、様々な世代の人々が集まる交流の場としていくことも大切である。支部役員や関係者が地域おこしの牽引車となるよう、指導者育成に向けた研修も企画する。
また、部落解放運動が抱える困難を打破するために、次世代の育成、青年層の組織化が重要な課題である。多くの青年層が故郷のムラを離れ、部落外で生活するなか、部落解放運動に関心の持つ青年が参加できるためのシステムを作ることは喫緊の課題である。
 三つ目に、狭山再審闘争勝利に向けた闘いの強化である。
57年も無実を訴え、80歳を超えた石川一雄さんの再審無罪の展望を切り開かなければならない。2009年から開始された裁判所・弁護団・検察の三者協議は、これまで41回積み重ねられてきた。弁護団は224点もの無実の新証拠を裁判所に提出してきたが、検察側は反証を提出し、再審の妨害をおこなっている。県民のつどいの開催や映画『獄友』を活用した情宣行動などの他、冤罪が生み出される要因になっている「代用監獄」の廃止や取り調べの全面可視化、証拠開示の法制度化を求める請願署名のとりくみなど、あらゆる運動を展開しよう。
 代議員の積極的な論議で大会を成功させよう。


■部落差別解消・人権条例制定にむけ運動の強化を(2月5日号)

 2016年に施行された部落差別解消推進法には、「現在もなお部落差別が存在」し「許されないもの」と明記されている。しかし、理念法であり罰則規定や救済規定はない。具体的な事業や予算確保についても規定していないので、具体化―部落差別をなくす施策につなげるためには、自治体での関係条例の制定が重要になる。県内では2017年にたつの市、2018年に加東市、2019年に神河町で部落差別解消推進の条例が制定された。それぞれ審議会の設置、調査の実施や計画の策定など、具体的な施策実施が規定されている。
 たつの市ではすでに審議会が設置され、市民の意識調査や関係住民の調査が行われた。その結果を踏まえた一層の人権行政の進展が期待される。
加東市議会では、議員から「不十分であるがその効果に期待する」との賛成討論がなされた。神河町議会でも、条例に賛成の立場で「相談体制の充実を」求める意見が出た。具体的な施策はこれからであるが、行政も議会も真剣に部落差別解消に努力しようとする姿勢が現れている。
 現在は尼崎市や三田市で条例制定の準備がすすんでいる。ただ、これらは部落差別解消推進に特化したものではない。尼崎市の条例案は「尼崎市人権文化いきづくまちづくり条例」。尼崎市と事業所、市民が力を合わせて尼崎市を安全で安心して暮らせるまちにするために人権を大切にしようとする趣旨の条例である。2016年に施行された障害者差別解消法、ヘイトスピーチ解消法を含めた「人権三法」を受けたものとなっている。
 県連としては、「部落差別解消」に特化した条例でなければだめだという立場は取らない。部落差別解消に特化したもの、人権全般を視野に入れた条例のどちらも重要だと考えている。大切なことは各市町での人権状況を直視し、人権侵害をなくし改善するとりくみをすすめることである。
 1月18日、尼崎市で条例制定を応援する市民集会が開催された。市議会議員や連合地区協議会、兵教組尼崎支部、阪神医療生協、日本軍慰安婦問題を考える会・尼崎の他、障がい者団体、部落解放同盟尼崎市連絡協議会などが呼びかけ人(団体)になっており、それぞれが決意を表明した。尼崎でもまだまだ人権課題があることが明らかにされ、だからこそ市民が条例制定を応援しようと改めて確認する集会となった。
 ところで、尼崎市条例や神河町の条例制定に兵庫県地域人権運動連合が反対している。彼らは「法律や条例で対応すべき部落差別は存在しない」「市民に責務を課すのは市民を差別者扱いするものだ」等の主張をしている。各地の人権意識調査だけを見ても部落差別の現状はわかると思うが、彼らはそれを見ようともしていないのではないか。こうした、「反対のため」の反対をする一部の人々を論破し、自信を持って条例制定運動を展開しよう。


■2020年展望と課題(1月5日号)

一 部落解放をめざす運動の継続・拡大を
 2022年には水平社結成100年を迎える。しかし、「現在もなお部落差別が存在するとともに、情報化の進展に伴って部落差別に関する状況の変化が生じている」と部落差別解消推進法(2016年)が示すように、厳しい部落差別の実態がある。
 1969年から33年間に渡っておこなわれた対策事業によって住環境改善や教育・啓発は一定進展してきたが、現在の市場経済優先政策により格差が拡大し、社会に閉塞感が漂うなか、不満の捌け口や愉快犯の標的として部落差別が悪用されている。
 また鳥取ループ・示現舎や元フジテレビアナウンサーの長谷川豊などに象徴される差別の確信犯への対応も大きな課題である。
 部落差別をはじめとするあらゆる差別をなくすために、兵庫県連は以下のとりくみに全力をあげる。

二 支部とブロック・県連の連携強化、同盟員の結集
 昨年もいくつかの支部が活動を休止し、同盟員数は減少している。同盟員の年齢層も極めて高く、運営が困難な支部が少なくない。こうした支部についてはこれまで合併や統合などで組織維持をおこなってきたが、これまで運動で勝ち取ってきた成果を守り、確実に継承していくためにも、支部の再編やブロック・地協・市協との連携方法など、今後の部落解放運動の在り方を真剣に論議しなければならない。
 また県内各地域の「人権のまちづくり」運動を活性化させるため、毎年実施するブロック懇談会などの機会を通じて、県連の「ブロック活動助成金」「人権のまちづくり事業補助金」制度や各種行政制度などの積極的な活用を呼びかける。
 そして何よりも、次世代を担う活動家の育成に全力で取り組まなければならない。県連青年部は昨夏の第26回大会で、支部がなくなってしまった地域や、県外からあらたに兵庫に就職・進学してきた青年を組織できるよう、青年部規約を改正した。部落解放同盟の基礎組織が支部であることは言うまでもないが、部落解放運動に関心をもつ青年が参加できるためのシステムを作らなければならない。

三 推進法の具体化を求めよう!
 部落解放運動の主要な課題である人権侵害救済法・差別禁止法の制定、 狭山事件の再審実現、差別糾弾闘争をしっかりと取り組むことはもちろん、今年は特に部落差別解消推進法の具体化を進めていきたい。県内では昨年12月に神河町で3番目となる条例が制定され、今年は多可町などでも条例の制定が期待される。県内すべての自治体で条例制定やインターネットモニタリング事業の導入を求めよう!
 部落解放運動を取り巻く状況は厳しいが、現実としっかりと向き合い、2020年を飛躍の年にしよう!