DHCを許さない!企業の社会的責任と人権を考える

Boycott DHC
不買運動で利用されているプラカード

 2020年11月、大手化粧品会社DHCが、在日コリアンを差別する文章を同社ホームページに掲載し、問題になっています。
今回はこの問題から、企業が果たす社会的責任(CSR)と人権、そしてこれに対して私たちが取り組むべきことについて考えていきます。

DHCの行為     

「サントリーのCMに起用されているタレントはどういうわけかほぼ全員がコリアン系の日本人です。そのためネットではチョントリーと揶揄されているようです。DHCは起用タレントをはじめ、すべてが純粋な日本企業です」
これは、DHCが「ヤケクソくじ」という企画の説明として、の𠮷田嘉明代表取締役会長名でホームページに掲載された文章の一部である。競合他社であるサントリーを貶めるために、在日コリアンの蔑称を使い在日コリアンに対する侮辱、差別に満ちた、絶対に許すことはできないものである。ヘイトスピーチ解消法の趣旨に反する、明らかなヘイトスピーチだ。この件についてサントリーが「コメントしない」としている一方で、DHCと取引のあるスープストックトーキョーは真摯な姿勢を示している。問題を指摘した個人からのメールに対して、「今回騒動となっているような差別的な発言については決して共感・同意できるものではなく、取引先の見直しを進め」るとして、実際にDHCグループ会社製造のビールの販売を停止した。SNSでは「差別企業DHCの商品は買いません」などの個人による不買運動も展開されているが、当のDHCはいまだ記事の削除もおこなわず、見解も明らかにしていない。

「ニュース女子」は人権侵害

DHCは過去にもヘイトスピーチをしている。DHCの子会社DHCシアター(現・DHCテレビジョン)が制作し、2017年1月2日にローカルテレビ局、東京MXで放映されたトーク番組の「ニュース女子」である。沖縄の基地建設反対運動について、取材もしないままデマと偏見に基づき事実をねじまげ、基地建設に反対する市民に対し「テロリスト」「日当をもらっている」などと嘘を撒き散らし誹謗中傷した。そして、のりこえねっと共同代表で在日コリアンの辛淑玉さんを「黒幕」と中傷し、沖縄や在日コリアンへの差別を扇動するものだった。放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送人権委員会は、辛さんに対する名誉棄損、人権侵害があったと認定し、再発を防止するよう放送局である東京MXに対して勧告をおこなった(2018年3月)。BPOは、独立した立場から放送倫理上の問題について判断する活動を基本として、放送界の自律と放送の質の向上を促す機関。勧告はBPOが放送局に対しておこなう最も重い判断である。「ニュース女子」に対しBPOは、「人種や民族を取り扱う際に必要な配慮がなされていない」「『日本民間放送連盟放送基準』を守ろうとする姿勢が欠けていた」「放送対象者に対する取材を行わなかった」などの理由から「名誉棄損が成立すると判断」したのだ。その後、東京MXは辛さんに謝罪したが、番組を制作したDHCテレビジョンはBPOの意見を無視し、番組制作・ネット上での放送を現在も続行。DHC会長は開き直りといえる姿勢を示したままである。2018年7月に、辛さんはDHCテレビジョンと番組司会者を提訴している。


CSRに求められるもの     

企業が人権を尊重し守る責任は、国際的にも掲げられる指標である。
1999年に国連が提唱した「グローバル・コンパクトの10原則」(2004年に1原則追加)は、普遍的な価値として認められる原則で、企業がその影響を及ぼす範囲で「人権」「労働」「環境」「腐敗防」の価値観を支持し、実行することを求めるものだ。その他、国際労働機関(ILO)や経済協力開発機構(OECD)なども、社会や環境に対して責任ある企業行動を推進するために、企業の行動規範や規格を制定してきた。規格間の差や途上国への負担などが問題となって統一した基準を求める声が高まり、2001年から国際標準化機構(ISO)によってCSR(企業の社会的責任)の領域における国際規格の開発が検討されていった。持続可能な発展への貢献を実現するために2011年、包括的な手引書として、ISO26000(社会的責任のガイダンス規格)が発効された。組織が尊重すべき社会的責任は「説明責任」「透明性」「倫理的な行動」「ステークホルダー(利害関係者)の利害の尊重」「法の支配の尊重」「国際行動規範の尊重」「人権の尊重」の7つの原則。同年に定められた「ビジネスと人権」の指導原則を守ることも、国際的な流れとなっている。企業の利益を最優先する体質が様々な問題を起こしてきたが、グルーバル化の進展のなかで、2000年以降は企業に対して説明責任や情報開示、倫理などが求められるようになった。そうしたなかで多くの企業が人権に関する方針などを掲げるようになった。実際は建前だけになっているところもあるが、DHCに至っては建前どころか、堂々と「(差別して)何が悪い」と開き直っている。反差別国際運動など13団体がDHCに対する抗議声明(2020年12月)で指摘するように、DHCの行為は「日本を含む182ヶ国が批准した国連の『人種差別撤廃条約』が明確に禁止をしている行為」であり、許されるものではない。

企業の意識を問う

今回のDHCの問題についてコリアNGOセンターが昨年12月28日、大阪市ヘイトスピーチ抑止条例に基づく調査を市へ申し立てた。同センターは12月18日付でDHCへ抗議文を郵送したが、「メールのみの受付で回答はしない」状態であったという。大阪市条例では、ヘイトスピーチが市民に対しておこなわれた場合、市が行為者の名前の公表やネット上での書き込みの削除要請をおこなうことが定められている。DHCの文章であげられているサントリーの本社が大阪市にあることなどから、条例の対象となるとして申し立てた。また、サントリーの対応について同センター代表理事の郭辰雄さんは「(自社の人権方針の)基準にみあう社会的責任を果たすべき」「少なくとも…明らかなコリアンに対する差別発言がある以上、それについては黙認すべきではない」とコメントしている。また、どのような企業と関わり取引するか。相手が人権を侵害する企業だと判明したときにどう対応するか。その時に企業の「人権」に対する意識が見えてくる。DHCと取引のある銀行4行(りそな、三菱UFJ、みずほ、三井住友)は、それぞれ人権方針をもち、親会社は国連グローバル・コンパクトに署名する大企業である。どのような対応をするのか、注視したい。

できることを積み重ねて   

業の社会的責任として求められるものは、人々の意識とともに変化してきた。DHCのような差別企業が開き直る背景には、それを支える一定の土壌がある。不買運動は単なる抗議にとどまらない。「どんな企業の商品なら買いたい/買いたくないと思うか」と考えて行動することは、「どんな社会をつくりたいか」ということにつながるからだ。個人でできることは思っている以上にたくさんある。今年1月、鳥取ループが鳥取の丸信商事の主催で講演会を開こうとした際、多くの人が主催者や会場のホテル、行政に対し声を上げた結果、中止になった。そうしたことの積み重ねとともに、国連の原則や法律、条例などを活用した具体的なとりくみをおこない、「差別を許さない」姿勢を企業に求めていこう。

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